2013/09/02 [コラム] スウェーデンの石畳

ヨーテボリからノルウェー国境までのびるスウェーデンの西海岸、ボーフスレーン(Bohuslän)は、澄んだ海、空、岩が織りなす素朴で美しい風景が楽しめるエリアです。

花崗岩が豊富なこの地域ではその昔、石切産業が栄えていました。加工がしやすく美しい花崗岩は、道路の石畳として高値で取り引きされたのです。 “knott”と呼ばれる小さなキュービック状に切り出されたボーフスレーンの花崗岩は、国内のみならずヨーロッパやアメリカ大陸などにも輸出されました。スウェーデンから遠く離れたブエノスアイレスの通りにも、ボーフスレーンの石が敷かれていると考えるとちょっと不思議な気持ちになりますね。

戦後、過酷な石切作業から若者が離れていったことや、石畳がアスファルトに置き換えられていったことなどから、ボーフスレーンの石切産業はゆっくりと衰退していきました。世界的にも、安く生産できる中国が花崗岩の主要な供給国になりました。現在、ボーフスレーンには小さな石切会社がひとつ、残るだけです。

今、スウェーデン西海岸を車で旅すると、至る所でこの石切場の跡に出合います。その昔、多くの若者たちが汗水流して工具を振り下ろして石を切っていた場所……。当時の風景に思いを馳せながら海岸線を眺めると、赤い花崗岩の大きな岩から水着を着た子供たちが海に向かって元気よくダイブしている姿が目に入ります。

ボーフスレーンの“knott”は今や、希少価値の高い高級品です。スウェーデン人の間では、この石は“成功の証し”。彼らはそれを、サマーハウスの庭の小道や玄関前のアプローチ(駐車エリア)に敷いて、本物の豊かさをさりげなく楽しんでいます。